ファーヤー・ユーナーンの歌"Ya Qatily"

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يا قاتلي"Ya Qatily" 「私を殺す人よ」

作詞:مهدي منصورマフディー・マンスール

1.

恋の熱情で私を殺す人よ、 あなたは迷いのうちに私を生き返らせた

歌の中にあなたがいないなら 歌なんて全部無駄ね

 

2.

あなたの愛の傷は 私の体に残った思い出

私にあなたの中の良いものがあるなら(*1) その傷を治さないで

 

(1繰り返し)

 

3.

私の魂で燃えるあなたの愛の火は神聖なもの

たくさんの涙を流したけど その火は消えない

 

(3繰り返し)

 

4.

連れて行って。私を形作って。私の形容詞になって。

私の魂に名前をつけるのはあなた

 

(1繰り返し)

(2繰り返し)

 

5.

あなたに明日会うためだけに眠って

あなたが和らげてくれる日差しを浴びるためだけに目覚める

 

(5繰り返し)

 

6.

あなたの愛に溺れて礼拝を怠るなんてことはなかったわ

あなたが私の心のキブラ(*2)だから

そのキブラに祈っているのよ

 

(1繰り返し)

(2繰り返し)

 

(*1)إن كان لي فيك خير

英単語に置き換えてみると"if ,there was, for me, in you, good"のような文。

歌詞の英訳では"But I shall keep anything from you..."と意訳されている。

 

(*2)キブラ:イスラーム教徒が一日5回の礼拝をする方角。本来はメッカのカアバ神殿の方角を指す。

煙草が句読点であることについて

以下(※印の下)は2018年9月12日にシリアの詩人ムハンマド・オベイドの詩「窓辺で」を訳したときのメモです。
ムハンマド・オベイドは他の詩の冒頭でギリシャの詩人ヤニス・リッツォスの言葉を引用しており、その元ネタを探す過程で様々な符合に気づきました。
 
2022年12月19日、サン=テグジュペリ『人間の大地』(堀口大學訳、新潮文庫)を読んでいて煙草が句読点であるという記述があり、それがリッツォスの詩の内容と似ていることに気づいたので書き留めておきます。
 
『人間の大地』p24

煙草がてんでの思い思いの瞑想に、句読点を打っているのだ

 

※※※
「窓辺で」
 
彼は終わりのない戯れに憑りつかれていた…
彼の声と風は長い争いの中で…
か細く
震えて
悲しげで
窓辺で止まった
木の上には小鳥たち
庭には小石が撒かれている
彼はつかむ
両手で
不在で
広く
彼の心は崩れ落ちそうだ
言葉は魔力を隠している
詩は間に合わない…
 
最期の行の「詩は間に合わない」と訳した部分は、もとは「詩は遅れる」القصيدة تتأخرだった。
ヤニス・リッツォスの詩「終わらない」(『リッツォス詩選集』中井久夫訳)の影響を受けているかもしれない。
 
「終わらない」リッツォス
 
山に雲がかかった。誰がいけないって?何だって?疲れて、黙り、
男は足許を見つめ、きびすを返し、歩き、腰を屈める。
石は下。鳥は上。水瓶は窓辺。アザミは谷。手はポケット。
口実。口実。詩は遅れる。空虚。
言葉の意味は言葉が隠すもので決まる。
 
 
また、ムハンマド・オベイドの詩には「…」(原文では「・・」が多いが、この記号についてリッツォスも言及している。
アレクサンドリアの詩人カヴァフィスにささげた12の詩のうちの一篇である。
 
「7 かたちについて」
 
詩人は言った、「かたちは頭で発明するものでも、外から押しつけるものでもない。その素材の中に含まれているものである。内部から外部へと出ようともだえる運動をみて、かたちがはっとわかることもある」。「平凡ですね」とわれわれは言った、「つかみどころのないお言葉ですね。何をいわんとしておられるのですか」。詩人はもう語らなかった。おとがいを両手でくるみこんで支えた。一つの単語を二つの疑問符で挟んだみたいだった。詩人の紙巻煙草は結んだ口に残る。吸うとも消すともどっちつかずの煙草は、火のついた白いアンテナだ。「・・・」の代わりだ。詩人が書き止むとき、ただ書き止むのではなくて至るところに組織的に残してゆく三つの点の代わりだ。(それともあれは無意識だろうか)。
 
このさまを見ているとおぼろげに見えてくる。詩人が小さな駅の待合室で徹夜している姿だ。待合室は冬の夜など孤独な旅客が袖すりあうところ、石炭の匂いの漂ってくるところだ。その匂いはどこから漂ってくるのだろう。旅の果てしなさからか。旅客たちの長年のひそかな馴染みゆえのおたがいのおしゃべりの間からか。今、汽車の煙が静かに立ち昇っている。二つのヘッドライトのつくる二つの水平の円錐の上方に、煙は濃く、重く、押し詰まって、細かい壁まで彫刻のようだ。二つの別れと別れとの間。詩人は紙巻煙草を消して立ち去る。

シリア人歌手ファーヤー・ユーナーンの歌"Baynatna fi Bahr"

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歌詞

 

بيناتنا في بحر     يبقى البحر بيناتنا

私たちの間には海がある 二人の間にはいつも海がある

 

وبيناتنا موج البحر    يجمع لنا حكاياتنا

私たちの間には海の波があって 二人の物語を結びつける

 

وبيناتنا مواعيد    ضاعت لأنه ضعنا

二人は約束を交わしたけど もうなくなってしまった 私たちがなくしてしまったから

 

وفجر كل يوم جديد   على الأرض يرجّعنا

新しく訪れるすべての日の夜明けが 私たちを地上へと返す

 

بيناتنا بحر وسما,    خلّو مواجهن ترميلي

موسيقى, موسيقى

二人の間には海と空がある。 波が音楽を創り出し、私に投げかけてくる。

 

عم ناديكِ اسمعني,    عم حاكيكِ افهمني

あなたを呼ぶから聞いて。 あなたに話すからわかって。

 

اذا مش قادر تفهمني ,    بلكي منحكي موسيقى

もしわからないなら、 きっと音楽で話せるでしょう

 

 

أنا عم مدلك ايدي سعيدة

私はあなたに幸福な手をのばす

 

بلكي منكتب سوا القصيدة

そうしたらきっと一緒に詩を書ける

 

مش مهم الكلام,    لا الوزن ولا القافي

言葉なんてどうでもいい 形式も韻もいらない

 

جمّعتنا الأحلام     والإيقاع اللي غافي

夢と隠れたリズムが 私たちを結びつける

 

نحنا قدرنا نعيش تحت سما زرقى

私たちの運命は 青空の下で暮らすこと

 

قبال البحر, تحت الجبل, حدّ السهل نبقى

海の前、山のふもと、野原の端で暮らすこと

 

نحنا قدرنا نكون    متل صبي مجنون

私たちの運命は 何もわからない子供みたいに

 

عاشق لون الطبيعة    وعاشق سحر هالكون

自然の色と 宇宙の魔法を愛すること

 

اسمعلي الموسيقى,    مافي غيرها الموسيقى

音楽を聴いて。 それしかここにはないから

 

والبحر    أمواج موسيقى

そして海は 音楽の波の連なりだから

 

*****

2022年12月17日訳

以下の箇所は特に自信がない。

بيناتنا بحر وسما,    خلّو مواجهن ترميلي

موسيقى, موسيقى

二人の間には海と空がある。 波が音楽を創り出し、私に投げかけてくる。